神戸大学麻酔科でのダヴィンチ手術における麻酔研修報告

高知大学麻酔・集中治療科 医員(後期研修医)
岡崎 想(研修期間:8/5~8/8)
濱口真有子(研修期間:8/19~8/22)

2012年8月、神戸大学麻酔科へダヴィンチ手術(ロボット手術)の際の麻酔研修に行かせていただきましたので、ご報告いたします。

「ダヴィンチ」とは内視鏡下手術用ロボットです。従来の腹腔鏡下手術に加えて、術者は鮮明な3D画像を得ながら手術ができ、ひとの手では限界のあった精密な操作がロボットアームを遠隔操作することによって実現されます。低侵襲であるため、術後の痛みも軽減され、より早い回復と早期退院が可能となります。当院でも2012年10月よりダヴィンチシステムが導入され、新たな手法の手術に麻酔科として対応するために、ダヴィンチによる手術症例の豊富な神戸大学麻酔科に研修に行かせていただきました。

ダヴィンチ手術における麻酔管理の特殊性はいくつかありますが、現行の腹腔鏡手術時の麻酔管理と大きく異なる点は手術の際の体位です。通常の腹腔鏡手術でも、適切な視野を得るために手術台を傾けて頭低位をとりますが、ダヴィンチ手術では複数のロボットアームを使用することからその傾斜角度がさらに大きくなります。よって通常の頭低位により起こりうる、脳圧亢進、眼圧上昇、神経障害などといった合併症発生の可能性が高くなるため、細心の注意を払った麻酔管理が必要となります。研修前に読んだ教科書にはこのように書かれていましたが、麻酔管理に関する記載はあまり多くはないというのが本当のところでした。実際にはどのくらいの傾斜なのか、合併症を防ぐために具体的にどのような対策を講じているのか、手術時間・出血がどの程度なのかなどについては、現場で見てみないとわからないと思い、教科書を荷物の片隅に入れて高知を出発しました。

研修当日は前立腺全摘術に参加させていただきました。手術台の傾斜角度は思っていた以上にきつく、またロボットアームを設置する際は、複数人で協力しながら精密に位置のセッティングが行われました。さすがに慣れたもので、スムーズにセッティングは完了し、執刀医が同一手術室内の遠隔操作用コンソールに両腕を入れて手術が始まりました。執刀医以外は、3D用の眼鏡越しに術野を映した画面を見ることで腹腔内の3D画像が得られます。普段の2D画像とは明らかに奥行が異なり、術者が標的の部位にアームで到達するのにも距離感を感じながらスムーズに操作できているような印象でした。結果的に、精緻な操作が素早く行えることで手術時間の短縮・出血量の減少に繋がり、頭低位の角度は大きくても、総じて考えると利点の多い手術だと思いました。術後の経過も非常に良好であり、通常レベルの術後鎮痛薬使用で創部痛の訴えもほとんどなく、明らかな合併症もなく経過しました。術中の体位造りはもちろんのこと、可動性の高いロボットアームが患者さんの顔などに接触しないように防御する専用の透明板(神戸大学では特注で作成されたようです)など、実際に見ることで参考になる点が非常に多かったです。

現在は泌尿器科領域で最も多く行われているダヴィンチ手術ですが、将来的には他科領域にも普及することが予想されます。医療機関も医師も県内中心部に偏在し、医療の地域格差が叫ばれる高知県ですが、将来的にダヴィンチの技術の確立と普及により、住み慣れた地域の病院でも、遠隔操作で最先端の手術を受けることができるという日が来るかもしれません。

まだまだ当院ではダヴィンチの導入初期であり、思考錯誤の日々が予想されますが、今回の研修で実際に見てきて学んだことを生かし、安全な麻酔管理に繋げたいと思います。
短い期間ではありましたが、快く研修を受け入れてくださった神戸大学麻酔科学講座の皆様に心より感謝申し上げます。

診療科: 麻酔科